
挑戦と冒険を重ねて、自分で選ぶ「次の居場所」へ
長野駅近く、かつて料亭だった建物を改修して開かれている「寺子屋TANQ」。小学生と中学生が学年の区別なく一緒に過ごし、キャンプや修学旅行、農作業など、多彩な体験活動に取り組んでいます。代表の市川寛さんにお話を伺いました。
日々の学びと体験の中で、自分のペースで“次”を探す

TANQが掲げているのは「自分らしく未来へつなぐ育ちと学びの場」。中でも「未来へつなぐ」ことを大切にしています。子どもたちはずっとここにいるわけではありません。中学校を卒業するときに、次の居場所を自分で選んで決め、そこで必要な力を身に付けて巣立っていけるようにしたいと考えています。「TANQ」という名前には、「Try&Adventure for Next Quest」、つまり次の課題に向けた挑戦と冒険という意味を込めています。
現在通っているのは小中学生7人で、ほとんどの子が毎日、9時半から16時まで過ごしています。小学生は、午前中は計算や漢字に取り組み、読書や読み聞かせの時間も設けています。午後は工作や折り紙、友達との遊びなどで過ごします。中学生になると、それぞれの課題がはっきりしてきます。全日制高校を目指して在籍校の定期テストに向けて勉強する子もいれば、得意なアイロンビーズの作品をマルシェや地域の文化祭に出展する子、クラシックバレエを中心に活動する子もいます。内容もペースも一人一人違いますが、自分で選んだことに取り組んでいます。

外に出かける体験もたくさん行っています。飯綱東高原でのテント泊キャンプや、子どもたち自身が企画する修学旅行、新たな「居場所」として映画館を活用している「うえだ子どもシネマクラブ」への参加や、栄村の畑での農作業など、ちょっと多すぎるくらいかもしれません(笑)。そうした中で、自分の好きなことや「いいな」と思えることを見つけてほしいと思っています。
体験の際、皆が同じ形で参加することは求めていません。キャンプや修学旅行は、低学年の子なら保護者が付き添ってもいいし、途中からや途中までの参加もOK。初めて食べるものを少しだけ口にしてみて、おいしかったらもっと食べる。そんな感覚で、挑戦してみようと思える環境をつくっています。
子どもたちを信じて、任せる
私は27年間、小学校の教員として子どもたちと関わってきました。教科書を使わない総合学習に取り組んだときには、保健室で過ごしていた子が教室に戻ってきたり、子ども同士が自然と助け合ったりする姿を目にしました。その後も、新しく開校する学校でカリキュラムづくりや行事の企画に携わり、その経験が今のTANQにつながっています。一方で、どんなに工夫された学校でも、その仕組みになじめない子は必ずいます。比べられる中で、いつも後ろめたさを抱えてしまう子もいます。だからこそ、小さな学びの場がたくさんあって、子どもが選べるようになればいい。そんな思いから、寺子屋のような場としてTANQを始めました。

ここにはレールがありません。何をするかも、どこへ進むかも、最後に決めるのは自分です。もちろん相談に乗ったり、一緒に高校や職場を見学に行ったりはしますが、大人が「転ばぬ先の杖」ばかり出していると、子どもは大人の様子をうかがうようになってしまいます。信じて任せ、邪魔をしないことが大切だと考えています。実は私自身、高校卒業後に3年ほど回り道をした時期がありました。人から見れば空白の時間でも、私にとっては価値観を揺さぶられる豊かな時間でした。だから子どもたちには、焦って不本意な道に進むくらいなら、じっくり考えて仕切り直していいと伝えています。
学校と並ぶ「もう一つの選択肢」に
ここは、中学校の出口でどうするかを決める場所と位置付けています。ただ最近は、中学2年生から通い始める子もいて、進路を考えるまでの時間が十分にありません。そうした子にどう寄り添い、次の場所へつないでいくかは、これからの課題です。
今後は、もう少し人数を増やし、子どもたちがより多様な人間関係を築けるようにしていきたいと考えています。今は口コミでの利用がほとんどなので、必要としている子に届くよう発信もしていきたいです。そして、子どもを預かる以上、何より大切なのは続けていくことです。運営の持続可能性をどう高めていくかは、いつも頭を悩ませているところです。

「学校に行けないからフリースクールに来る」のではなく、自分が学び、成長していける場として、学校かフリースクールかを選ぶ。そんなふうに受け止めてもらえる社会になればと考えています。実際、ある中学生の女の子は、心配する祖母に「私は大丈夫、ここに通っているから」と話しているそうです。自分で選んだ場所に通っているという実感が子どもを強くしていくのだと思います。フリースクールが、子どもが自分らしく未来へ向かうための、もう一つの選択肢であり続けられるよう、これからも挑戦と冒険を重ねていきます。






