
言葉ではないコミュニケーションで、馬から学ぶちょうどいい「間」
標高1100メートルの蓼科高原の別荘地「三井の森」にある蓼科ポニー牧場。ポニーをはじめ、さまざまな30頭の馬が出迎えてくれます。ここで毎週火曜日に開かれているのが、「ひだまりファーム」。運営する公益財団法人ハーモニィセンターの代表理事・上村優一郎さんにお話を伺いました。
馬と触れ合い、自分自身を見つめ直し、成長する

当財団は50年余りにわたって、ポニー乗馬を取り入れた活動を行っています。私たちは、単に乗馬体験を提供するのではなく、大人も子どもも一緒に参加しながら、動物と触れ合うことで共に成長していくことを目標にしています。この牧場も、その中の一つとして、大自然とポニーに触れ合いながら学んだり遊んだりするキャンプや、ポニークラブを開いています。
ひだまりファームが始まったきっかけは、コロナ禍でした。2020年3月、春休みのキャンプが中止になり、近隣の小学校が休校になったことで、子どもたちの居場所として1カ月間、牧場を開放しました。その際に、学校生活になじめない子がいること、また学校が再開しても戻りづらいと感じている子がいることを知りました。学校に行けない子どもたちが、乗馬や馬の世話、そして人との関わりを通じて自分自身を見つめ直すことができるのではないかと考え、2021年1月、日本財団の助成を受けて不登校児の居場所事業を立ち上げました。
活動は毎週火曜日です。10時に集合してまずは馬小屋の掃除をして、その後はえさ作り。えさは分量や配合が馬それぞれで決まっています。昼休憩を取ってから、皆で遊んだり、馬に乗ったりして、15時には帰ります。現在、1日の利用は6~7人ほどで、小学生が中心です。学校に通いながら火曜日だけ来るという子、近隣だけでなく東京や山梨から通っている子もいます。
意思を伝えることで、適切な距離感を学ぶ

ひだまりファームは学習支援をメインにしているわけではありません。大切にしているのは馬との関わりを通じて学ぶコミュニケーションです。馬は群れで生きる草食動物。群れのリーダーは捕食されないように、移動する方向とスピードをコントロールする役割を担っています。そういうリーダーの素質を見極める力を、馬は持っています。それは人間に対しても同じ。力でねじ伏せようとすると離れていくし、曖昧な態度で接すると試してくることもあります。でも、芯が通っていて、信頼できると分かれば、ついてきます。

蓼科ポニー牧場では、近くの小学校に馬を貸し出す事業も行っています。最初は「かわいい」と寄ってくる子どもたちも、馬が前に出ると驚いて下がってしまいます。馬は距離を意識する生き物なので、人間が引くと、自分の方が強いように感じてしまう。それを繰り返していると、人間を噛むような“悪い馬”になってしまうこともあります。そこで、子どもたちには「イエスとノーをはっきり伝えないと、この馬はどんどん悪くなってしまうよ」と伝えます。噛まれそうになったらダメ、と示すことで、馬は適切な距離感を学んでいきます。ひだまりファームでも、馬の世話をするうちに、互いにとってちょうどいい「間」を自然と理解できるようになっていく。ここでは「馬が中心」です。そういう中で、大人があれこれ指示をしなくても、子どもたちは「馬のために」という理由で、自発的に動いて、徐々に「間」を身に付けていきます。
子どもも大人も、興味を持つことが第一歩
私自身、小学校1年生の時に当財団が運営する町田ポニークラブで馬と出会いました。その後、乗馬クラブの勤務や、皇宮護衛官の乗馬指導を経て、2013年に入職しました。それは、当法人の「馬を通して子どもを優しくたくましく育てる」という理念に共感したからです。「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざがありますが、まさにその通り。興味があることに対しては、体も心も自然と動きます。馬と接する時間を重ねることで、年下の子どもの面倒を自然と見るようになった子もいますし、最初は怖がっていたけど、少しずつ距離が近づいて、表情が明るくなった子もいます。

私も含めてスタッフは元教師など教育関係者ではなく、正直に言えば、事業は手探り状態で始めました。今も、講習会に参加したり、ほかのフリースクールと連携したりしながら、勉強しているところです。私たちも興味を持つことで、学び、成長していく。“興味のスイッチ”が入れば、どんなことも積極的に吸収していけるのは、大人も子どもも一緒ですね。






