多様な学びの実践事例

写真: 信州フリースクール居場所等運営者連絡協議会代表 村上陽一さん

「つながることで見えてくる、自分たちらしい活動のかたち」kikka☆link(きっか・リン)フェス2025開催レポート

信州フリースクール居場所等運営者連絡協議会代表 村上陽一さん
2025年10月31日 公開

9月12日、松本市の信州大学松本キャンパス全学教育センターで「kikka☆link(きっか・リン)フェス2025~信州フリースクール居場所大集合!~」が行われました。

信州フリースクール居場所等運営者連絡協議会が、フリースクールや居場所運営者・スタッフ等多様な学びの支援者、利用者などが集まり、相互の交流や連携を深めたいと企画。「つながることで見えてくる、自分たちらしい活動のかたち」をテーマに、活動内容を広く発信し、地域での理解や支援の輪を広げることを目指して初開催しました。

当日は県内の35団体が参加。県内外から300人を超える人が集まりました。その様子を振り返ると共に、信州フリースクール居場所等運営者連絡協議会の代表を務める居場所・フリースクールGlück(グリュック)の村上陽一さんに同フェスに込めた思いや今後について伺いました。

「つながる」から生まれる学び

信州フリースクール居場所等運営者連絡協議会は2024年5月に設立されました。当初は県内で子どもの居場所づくりをしている団体や、保護者の会なども含めた17団体が集まり、スタートしました。でも、それ以前から、運営者同士は定期的にオンラインで情報交換をしていたんです。

信州型フリースクール認証制度は、研修・情報発信・連携促進といった運営の総合的な支援がポイントの一つになっています。今年度に入って、認証フリースクールの学びの充実を促すために、どういう研修がふさわしいのかを検討したときに、いわゆる一般的な研修会もいいが、実際に現場で何年もやってきた人たちが県内各地にたくさんいるので、皆が集まってノウハウや経験談を共有して、お互いに学び合える会を開いたらどうかという意見が出ました。協議会は基本、オンラインが多かったので、「リアルで会う場」がほしいという思いもありましたね。実際に顔を合わせて、「はじめまして」が交わされる場をつくることが、フェスの出発点でした。

名称も、自然とポータルサイトの愛称「きっか・リン」を使ったらいいんじゃないかという話になりました。実はこの愛称は、グリュックの子どもたちが考えたものです。皆で考えた時もいくつか挙がった言葉をつなげてふいに出てきた「きっか・リン」に、「これだ!」という感じでその場にいた全員が賛成したんですよね。今回も「きっか・リンフェスってどう?」「それがいいね」と一瞬で決まったので、その時のことをちょっと思い出しました。

大人も子どもも主役になれる、豊かな時間

最初は150人くらいを想定していたので、予想の倍以上の人が参加してくれました。当日は県外から来たという方や、視察に訪れた他県の職員もいました。

フェスを行う上で大切にしたいと考えたのは、子どもたちの存在です。平日に開催することは決まっていたので、子どもたちが「大人が何かをやっている間、我慢して待っている」というようなイベントにはしたくなかった。そこで、大学生ボランティアに協力してもらって、ゲームや実験のブースを用意しました。会場は終始にぎやかで、大学生と子どもたちが年齢の近さもあってか、自然に打ち解けていく様子を見て、「世代を超えたつながり」が具現化されていると感じました。大学生からは、子どもたちと関わることで「不登校の子に対するイメージが変わった」という声もありました。最初はどう接していいか分からず、少し距離を取っていた大学生も、フリースクールのスタッフの姿を見て、「こんなふうに自然に関わればいいんだ」と学んでいったようです。そうした“学びの連鎖”があちこちで起きていたのが印象的でした。

テーマにした「つながることで見えてくる、自分たちらしい活動のかたち」には、まさにそんな実感が込められています。大人も子どもも、それぞれが無理なく関わりながら学び合うこと。それこそが、このフェスで目指した姿でした。何より嬉しかったのは、子どもたちが笑顔で帰っていったこと。途中で「帰りたい」と言う子もほとんどいませんでした。懇親会にも「もう少しいたい」と残ってくれる子がいたほどです。子どもたちが楽しめたことで、参加した大人たちも安心して交流ができました。

つながりの先に見えてきたもの

今回のフェスの背景には、「信州型フリースクール認証制度」と、それを支える官民の協働があります。制度づくりの段階から、行政と民間が“対等な関係”で議論を重ねてきたことが、今の土台になっています。協議会の活動を通じて、相互の交流やつながり、理解は少しずつ進んでいると感じています。どこへ行っても誰かしら知っている仲間がいる。孤独に戦っていた頃とは違い、心強いと言ってくれます。誰かがオンラインで相談すれば、誰かが教えてくれる。そういう関係性ができたことは大きな成果です。

今後の課題の一つは、自治体格差です。長野県内、77市町村の中にはフリースクールが少ない地域や、行政との連携がまだ進んでいない地域があり、温度差や情報格差もあります。どこに住んでいても同じようなサービスが受けられるようにしていきたいと思っています。

もう一つは、非当事者、つまり不登校やフリースクールに直接かかわっていない人への理解をどう広げていくかです。今は、クラスに不登校の子がいないことの方が珍しい時代。自分の子どもが不登校でなくても、友達が不登校になる可能性は否めません。PTAなど、地域の保護者組織とつながりながら「不登校も特別なことではない」という認識を社会全体で共有していきたいです。

私はよく「多様性」よりも「多層性」という言葉を使います。違う形の学びが並び立つだけでなく、ゆるやかに重なり合っている状態が理想です。一つの団体がすべてを担うのではなく、互いに補い合いながら子どもたちを支えていく。「きっか・リンフェス」は、その“つながりの多層性”が一つの形になったものです。これから先、行政も民間も、子どもも大人も、それぞれの立場から関わり合いながら、「自分たちらしい活動のかたち」を育てていきたいと思っています。