多様な学びの実践事例

写真: 里山スクール木の子「わかば」 菊地ユミさん

多世代と関わることで、人としての“根っこ”を育てる

里山スクール木の子「わかば」 菊地ユミさん
2025年9月26日 公開

辰野町の川島区にある「里山スクール木の子」。不登校児童生徒クラス「わかば」のほか、乳幼児親子クラス「どんぐり」、高齢者クラス「かえで」があり、多世代間の交流も行われている“全世代型”のスクールです。運営するNPO法人木の子の代表・菊地ユミさんにお話を伺いました。

多世代で過ごすからこそ得られる「学び」がある

現在、「わかば」には小学2年生から高校1年生まで7人が登録しています。活動時間は基本的に、月・水・金曜日の9時半から15時までで、内容は多岐にわたります。畑仕事や散歩、そば打ち体験などさまざまで、月曜と水曜は皆で地元の野菜などを用いて昼食を作ることになっています。決められたカリキュラムに沿うのではなく、子どもたち一人一人の関心や、季節に応じて柔軟に対応しています。完全に自由ということではなく、金曜日に次の1週間のスケジュールをだいたい決めておいて、当日の朝に「今日は何をする?」と確認して活動することが多いです。

「どんぐり」や「かえで」のクラスの人たちと、一緒に活動することもあります。「どんぐり」の乳幼児らとの関わりでは面倒を見てくれたり、私が言ってもやらないようなことを、下の子たちのために率先してやってくれたりと、お兄ちゃん、お姉ちゃん的な存在として、頼もしい一面を感じさせてくれます。ほかにも、赤ちゃんの泣き声が苦手だった子が、接する時間が長くなるにつれて、少しずつ関わりを持てるようになった例もあります。「かえで」に参加している高齢者から、「90歳の今が一番幸せ」という話を聞いて、未来に希望を抱けるようになった子もいました。さまざまな世代が一緒に過ごす中で生まれる、自然な言葉のやり取りから得られる「学び」があると感じています。

「子どもは皆で育てる」ことを実感できる地域

「木の子」の原点は、2017年に発足した「木の子クラブ」です。もともとは地区にある川島小学校の閉校が決まったときに、地域の児童たちが放課後に遊べる場所を作ることで学校の存続が叶わないだろうかと考えた保護者の方が立ち上げました。

私が横浜から辰野町へ、家族と共に移住したのは2018年。当時は自分の子育てがこのままでいいのか悩むこともあったのですが、地域の人たちが私の娘をまるで家族のように受け入れてくれて、「ここでは、子どもは皆で育てるものなんだ」と感じるようになりました。そして、この温かさ、安心感を何とか「仕組み」にできないだろうかと考え始めました。「木の子クラブ」に関わっていたメンバー数人と共に2022年、NPOを設立。世代を超えてさまざまな人が集まる場にしたいと考え、そのタイミングで“全世代型”にして、不登校の児童生徒も受け入れるようにしました。当初は地域の公民館を借りていましたが、築100年ほどの古民家を改修し、昨年6月から新たな拠点としています。

学校とは、毎月レポートを出して情報共有をしながら、連携を図っています。子どもを中心に考えると、学校とフリースクールは協働して、同じ支援者として役割を分担することが大切だと思います。学校での学びと、ここでの学びがつながることで、子どもが安心して自分の道を歩めるようにしていきたいです。

地域に伝わる知恵も学べる場に

立ち上げ当初は「居場所」の役割が大きかったですが、徐々に「学びの場」としての需要の高まりも感じるようになりました。現在は、算数や国語など基礎的な学習を取り入れつつ、地域に根差した知恵や技も学べるようにしたいと試行錯誤しているところです。畑仕事もそうですが、伝統工芸や、山や動物との付き合い方など、暮らしに密着した体験を「学び」に変えていくことを目指しています。学校の授業とは別の形で、ここだからこそできる学び、将来につながる力を育めるようにしていきたいです。
川島区は人口約700人のうち半数以上が高齢者という地域。受け継ぐべき知恵が多く残っています。そういう知恵を次世代に伝えることは、この地域を未来につなげることにもなります。

人と関わることは、面倒に思えることもありますが、その中でこそ自身の存在を実感できるものです。子どもたちの様子を見ていても、お互いに言いたいことを言い合うからこそ、ケンカをしても仲直りができる。自分の意思を相手に伝えようとすると、時としてぶつかることもあります。そこからどうすればいいかを考える機会が大事で、それを避けていては成長しないと思います。「木の子」という名前には、人間も木のように育ったらいいという思いが込められています。子どもたちが多世代と関わりながら人としての“根っこ”を育て、自分の道を自信を持って歩んでいく。その土壌をこれからも耕していきたいです。