多様な学びの実践事例

写真: 小中学生のための学び舎 みんなの学校 池田聡子さん

大人も子どもも個性を生かしあい、みんなで創る学びの場で、自分らしく生きる“素”を育てる

小中学生のための学び舎 みんなの学校 池田聡子さん
2025年9月4日 公開

「小中学生のための学び舎 みんなの学校」は飯縄山のふもと、滝沢川のせせらぎが聞こえる飯綱町古町地区にあります。シュタイナー教育をベースとした全日制のフリースクールで、里山の自然環境を生かし、野外体験や芸術体験を取り入れた授業を行っています。代表の池田聡子さんにお話を伺いました。

手や体を使い、心を動かす体験を学びにつなげる

現在は飯綱町を中心に周辺の市町村の小中学生、19人が通っています。「自然体験やものづくりなど、体を使う活動を通して意志の力を育てる」「芸術を通して豊かな感性・心を育てる」「少人数制クラスで教科学習を行い思考力を養う」を3つの柱として、月曜から金曜までカリキュラムを組んでいます。朝はお散歩から始まって、各学年で各教科の学習をするほか、皆で野外活動を行ったり、食育として自分たちで育てたお米や野菜を使ってお昼ご飯を作ったりすることもあります。

大切にしているのは、手や体を動かして、実際に体験することです。メインレッスンとしている各教科の学習でもドリルに取り組むだけではなく、体験を通じて学べるようにしています。例えば、ひらがなを習うにも、まず物語を聞いて絵を描き、その絵の中から文字を習ったり、算数も物語を聞いて積み木を操作し、その計算を色彩豊かにノートに描いてみたり。まず体を使って、心で感じて、思考を深める。そうすることで、自分の思いや考えをしなやかに実現していける力を育てていければと考えています。

野外活動や、音楽・アート・演劇・書道・オイリュトミー(動きの芸術)などの芸術活動も多く取り入れています。最初に来た時は、表情が乏しかったり、話せなかったり、あまり食べられなかったりという子もいるのですが、体験を重ねていくにつれて元気になっていきます。自然の中で体や感覚を使い、自分の手で何かを作ることや、個性を生かせる芸術活動が、子ども達の生命力を高めてくれているのではないでしょうか。

楽しそうな大人の姿が、“こんなふうになりたい”を引き出す

各教科の授業は、常勤の5人や数学、英語などの専門の先生が担当していますが、多彩な体験活動は、地域の大人たちが“先生”になってくれています。ほとんどボランティアのような状態ですが、農家の方やチェロや書道教室の先生など、本当にさまざまな職業の方々が20人ほど携わってくれています。米農家さんに教わって塩水の濃度を計算して良いもみを見分け、それで育苗して田植えをしたり、大工さんや建築士さんと築100年超の古民家の改修工事を行って、そこを第2校舎にしたり、自分たちの暮らしと結びついた学びをしています。体験だけで終わるのではなく、例えば現代の建築は柱をボルトで止めて揺らさないようにするけれど、「古民家の柱は揺れることによってお互いの揺れを吸収しあうから固定しない」という昔の人の知恵の素晴らしさなど、教えてもらったことをノートにまとめて、思考に向かうようにしています。

“その道のプロ”の先生は、皆さんとても楽しそうなんですよね。子どもたちの疑問にもうれしそうに答え、生き生きと授業をしてくれます。そういう姿を見て、子どもたちは「大人って楽しそう」と感じてくれる。好きなことを仕事にしている大人に出会えることが、未来への憧れになっています。卒業生も、自分の好きなことを生かして、建築や農業、教育など、それぞれの道に進もうとしています。高校に進学して、他校の生徒に声をかけたり、スポンサーを募ったりして演劇を制作し、上演した子もいます。私たちの目標の一つ、「自分らしさを生かし、喜びをもって世界に働きかけていける」ということを実現してくれているのではないかと思います。

さまざまな大人が見守る中で広がる学びの場

保護者の方に対しては、月1ペースで「学びの会」を設けるほか、参観日や親子遠足、秋祭りなど参加できるイベントを行っています。人前だと緊張して思ったように行動できない子や、なかなか他の子と関われなかった子が、楽器を演奏したり、お芝居をしたりする姿を見て、その成長を喜んでくださる方も多いです。在籍校の校長先生や担任の先生が見に来ることもあります。

今年からは小学1~4年生を対象にした土曜クラスも始めました。親子で参加してもらい、子どもはものづくり体験などの授業を、大人は教育講座を受けられるようにしています。子どもたちが増えて手狭になってきたので、今は新しい校舎となる場所を探していますが、今後はより多くの子どもたちを受け入れられるような体制を整えていければと思っています。

ここを始めたのは2011年。私の長男のゆっくりした個性を大事にしたいと自宅で1対1で始めたことがきっかけでした。当初は全く予想していなかったのですが、同じように学びたいという子どもたちが少しずつ集まってきて、2013年に「みんなの学校」を開校しました。名前には、子どもも大人も皆で学び合い、つくり合うという意味を込めています。心がけているのは、子どもたちが自信を持って、外に出て行けるように育てたいということ。そして、関わる地域の大人たちの輪を広げていきたいということ。さらに「みんなの学校」という取り組みが、何かしら他の人たちの参考にもなればうれしいですね。