
「学校に通えないからダメ」と子どもが思わないような社会に
一般社団法人オレンジファムは千曲市でフリースクールを運営するほか、昨夏には放課後に子どもたちが集える場所としてユースセンターも開設しました。キャンプをはじめ、さまざまなイベントも企画運営するなど、「居場所づくり」と「まちづくり」に取り組んでいます。代表の中島壮太さんにお話を伺いました。
子ども自身が、自分で考えて決められるように

教室では、昼はフリースクール、夕方からは学習塾をしています。フリースクールは、決まったカリキュラムはありません。一応時間割はありますが、その中で何をするかは子どもたち自身に決めてもらっていて、理科の勉強をする子もいれば、ゲームをしたり、折り紙をしたり、何もせずにぼーっと過ごしたりする子もいます。毎週金曜は課外活動の日。ボルダリングなど体を動かすことが多いですが、地域のつながりを活かして消防署を社会見学させてもらうなど、多彩な体験ができるようにしています。
大切なのは「自分で考えて決める」こと。大人が決めたり、押しつけたりするのではなく、子どもの気持ちを尊重することを意識しています。子どもたちと接していると、これまで誰かの意見に振り回されて苦しんできたと感じることも多いです。だからこそ、「自分はどうしたいのか」を少しずつ取り戻せるような場にしたい。最初は自分の意見を表現することが難しい子もいますが、関係性が築かれると徐々に心を開いてくれます。ゲームやキャンプで一緒に過ごす時間が、そのきっかけづくりになっています。
地域とつながり、安心できる「居場所」をつくる

私は千曲市の出身で、小中学校時代の先生方と、今もつながりがあります。それもあって、地域の学校との連携は密に行っています。校長先生や担任の先生が訪ねてくることもよくあります。現在、会員数は50人以上いますが、毎日通っているのは数人で、学校に行きながらときどき来るという子もいます。単発での利用もできるようにしていて、「必要な時に必要なだけ」過ごせる場所を目指しています。
昨夏、ユースセンター「fav.place(ファボプレイス)」を市内に開設しましたが、もともとオレンジファムも、ユースセンターと呼んでいました。フリースクールというと、どうしても学校という印象があって、閉ざされているようなイメージを持つ人も多いように感じます。ここは「面白い人がいる、面白い場所」にしたかった。実際に卒業生がフラッと顔を出してくれたり、イベントのボランティアに来てくれたりもして、子どもも大人も多様な人々が集えるような場所になっていると思います。市内各地でのイベント企画・運営にも積極的に取り組んでいます。私をはじめ、スタッフとの出会いそのものが、子どもたちにとっての新しい世界との接点になっていけばいいですね。

学校が合わない子どもたちにも寄り添えるサポートを
学校に行けないことで、自分を「ダメな人間」と思い込んでしまう子どもたちが本当に多いです。でも、それは全然違う。もっと広い世界があるし、自分らしく生きる道はたくさんあることを伝えたいです。
長野県内の小中学校で不登校の児童・生徒が年々増える中、「学校に合わない子がいる」という事実をもっと知ってもらいたいと思っています。ここに来る子たちは比較的アクティブで、外に出るエネルギーを持っている子も多い。でも実際には、学校以外に過ごせる居場所があることを知らなかったり、家から出るきっかけがなかったりする子どもたちがたくさんいます。そういう子たちにどういったアプローチができるか。最初の一歩を踏み出してもらえるように、今後も時間をかけて、一人一人に寄り添ったサポートを続けていきたいです。
中島さんへのインタビューの最中に、まさにフラッと顔を出してくれた卒業生・峯村仁さんにもお話を伺いました。

「自分のやりたいことをやっていい」と思えるようになった
僕がオレンジファムに通っていたのは、中2の5月から卒業までの約2年間です。きっかけは、母が参加していたイベントで中島先生に出会ったこと。中1の終わりごろからテストで思うように点数が取れなくて、「努力しても意味がないかも」と感じて学習意欲がなくなり、学校に行けなくなった僕に、「会ってみない?」と母が勧めてくれて、まずは塾に行き始めました。そこから昼間のフリースクールにも自然と通うようになりました。学校に行けなくなった後も、部活の吹奏楽は続けたくて、だいたい午前中から15時ごろまでオレンジファムにいて、そこから部活に行っていました。部活は途中、少し休んだ時期はあったものの、中3の秋の引退まで、やりきることができました。僕の場合、たぶん勉強自体が嫌だったわけではなかったので、塾で英語や数学を頑張って、高校にも合格できました。自分で言うのもなんですが、成績も良いし…ちょうど今日受けた英語のテストもしっかりできたと思います。

振り返ってみると、「今は自分のやりたいことをやればいい」という母の言葉に、何度も救われました。今、学校に行けなくて苦しんでいる人には、今、やりたいことがあるなら精一杯やったほうがいいと伝えたいです。それができないなら、どうやったらできるようになるか工夫すればいい。僕はもともと、人と話したり、一緒に何かをやったりするのが好きだったので、オレンジファムで小学生から大人まで、本当に幅広い年代の人たちと過ごせたのが良かったです。コミュニケーション能力もかなり向上したと思っています。
将来は、音楽か福祉の仕事に就きたいと考えています。どちらも好きなことなので、自分の「好き」に向かって、少しずつ前に進んでいきたいです。